人が集まる場所
京都市伏見区
竣工:2023年3月
コモンズのある暮らし
コモンズの意味は共有地、共有資源と表わされています。日本の場合、地方集落で山林を共同で管理利用する、これが元々の意味に近い印象です。
所有を問わず、場の使い方として共使いをするという意味でのコモンズ。公の物でも個の物でもなく、所有はちょっと置いておいて共に使うことで生まれる可能性。暮らしの中にコモンズがあるとどんな可能性が広がるでしょう。
設計の意図として当初考えていたことは、兄弟家族が隣あって住むならば、相互の家族をつなぐための庭を中心につくるということでした。
いわゆる庭としてのつくり込みをなるべく少なく、二つの家族の暮らしのスタイルに対応する自由さを意識しました。その方針はそれぞれの家族と設計者が早い段階から共有できていたように思います。
敷地については、庭の間にそれぞれの敷地の所有権界があります。お互いの敷地に余白をつくり、二軒で一つの庭をお互いが使うことで所有敷地以上の使い方が広がるイメージです。
具体的には、兄家族と弟家族がそれぞれの敷地の余白をつなげることで45㎡ほどの共有スペースが生まれました。
完成後に訪れると、子どもたちの遊び場、植栽を楽しむ庭、洗車場、庭キャンプ、BBQ、通路、、、。兄の家のお子さんが1人、弟の家のお子さんが3人いらっしゃいますが、4人のお子さんを4人の大人が見守りながら子育てをされているように感じました。
三世代、四世代同居の大家族のような助け合い支え合う暮らしが、縦方向の世代ではなく、横方向の同世代で行われているようです。
共有する空間は「となりんちもじぶんち。じぶんちもとなりんち。」
・コミュニケーション:いついつにこんなことするよといった共有相手とのコミュニケーション、調整、気遣いが自然と生まれます。
・距離的安心感:子育てだけでなく、非常時に頼れる存在がすぐそばにいる心強さはVUCA時代といわれる社会で大きな安心感につながります。
・親しき中にも距離感:共有の庭とすることでプライバシーの確保、視線というバリアは低くなりますが、それでもお互いの暮らしへの距離感をそれぞれの家に中間領域を取ることで配慮します。
・維持管理の負担軽減:全体が共有であり私有でもあるかのように意識が広がることで、片付け掃除メンテナンスといった維持管理がみんなごとであり自分ごとになります。
・街への意識拡張:二軒の家族の間に開かれたものが更に街区内の他家族へと開かれることで、活動やつながりの可能性が広がります。
家、家族、暮らしの在り方は細分化され、それぞれで機能させるため進化し現在の地点があるわけですが、その変化の過程の中で失われていった人とのつながりや暮らしの工夫や知恵のようなものが沢山ありそうです。
コモンズのある暮らしは、昔の下宿がシェアハウスになったように、助け合いや分かち合いといった良さを引き継ぎつつ、今を生きる私たちの暮らしやすさ、生きやすさにつながる可能性のあるカタチに思います。
京都市伏見区
構造:木造2階建て
敷地面積:119.89㎡
延べ面積:92.74㎡
家族構成:夫婦 子供1人
竣工:2023年3月
兄の家と弟の家(コモンズのある暮らし)は、隣り合って暮らそうと兄から弟への声掛けからはじまりました。兄は弟を、互いに尊重し、みんなで苦楽を共有し、よりよい暮らしができるように一緒に考え、一緒に実践してくれる最高の相棒と表現されています。
周りの人が生き生きと幸せそうにしていることを眺められる喜び。
ご自分たちが強い意志をもつというより、人との出会いや繋がりを大切にされているご夫婦の住まいです。お話しを聴くことが特に大切なお仕事のご主人と、隣り合って暮らすカタチに価値を感じ賛同された奥様。お子さんとの3人家族ですが、ご両親、妹弟家族、友人、人の集まる場としての機能をあわせもつ家になりました。新しい分譲住宅地で、移り住んだご近所の方たちとの集会も行われたそうで、当初予想もしていなかった人たちとの集まりの場にもなっています。
一人一人の個性を尊重しながら、その個性を最大限に発揮できる場所であり続けること、互いに助け合う気持ちを持ち続けることを、子どもたちも含めみんなが大事だと思えるように、自分ができることを無理なくしていきたいと思っていますとメッセージをいただきました。
京都市東山区
構造:木造2階建て
延べ面積:151.01 ㎡
家族構成:夫婦 子供1人
竣工:2018年1月
<strong>設計趣旨</strong>
築50数年の工房併用住宅
建築主である陶芸作家の藤平伸氏が、柱や梁は大正時代に東山二条にあった油問屋の蔵2棟のいいとこどりをして移築し、工房兼自宅として建てた家です。大きな吹抜けのある土間空間、収集されていた小道具や自身の作品が至る所にあり、空間と相まって濃密な空気感を醸成していました。
部分的な経年劣化はあるものの、構造体は寸法の大きな部材が使われた建物です。今回の改修では、作品展示をする記念館、収蔵品庫と住居スペースを機能的に分けながら緩やかに区切り、それぞれがより快適で居心地をよくするために、建築当初の空間や雰囲気を活かした設計としています。建築当初の素材使いに氏の考えや想いがあると考え、途中に改修されていた部分を当初のものに戻しつつ、整合させていく手法をとりました。
記念館は、吹抜けのある回遊動線の展示スペースと二階小間という構成になります。小間は氏の画集が観覧できると共に展示スペースを見下ろすことができ、太陽の動きによってはステンドグラスから差し込む光のインスタレーションを楽しむことができます。
一年を通じて自然の光や偶然の事象を感じながらここで仕事をされていたのではないかと想いを馳せました。建築当時のままを活かすことで、作品と空間の関係性や、そこに流れる作り手の想いを感じていただけることを願います。
<strong>改修の方針概要</strong>
劣化改修
・屋根は桟葺瓦に葺きかえられている
・外壁のひび割れ部分補修
・構造体(湿潤箇所の改善)
・外構(門扉等)の補修、刷新
断熱改修
・びおソーラー設置
・基礎内断熱(ネオマフォームt=60)
・1階のみで暮らせるゾーン内で仕切れる計画
・開口部(内窓)設置
耐震改修
・耐震診断上部構造評点の向上 偏心量を少なくし0.7以上を目指す
・基礎(ベタ基礎)増設
・耐力壁の追加
・水平構面の強化 2階床面の強化
機能改修
・記念館部分、作業場、住宅部のゾーニングによる平面計画の変更
・記念館部に専用トイレ増設
・住宅部の回遊動線化
・設備機器の刷新
・以前改修に用いられていた新建材を建築当初のイメージと合う材料に取り替え整える
・2階は住宅部から記念館用途に活用
・2階は収納に備えての床強化