-2016.7.15-
「カトリック宝塚教会」見学会
カトリック宝塚教会とは
宝塚市の住宅街に建つ、2015年でちょうど築50年の教会です。 電車の線路沿いにあることから、地域の人たちにとっても馴染みの深い建物ではないでしょうか。 設計者の村野藤吾氏は作風が「多彩」と言われますが、宝塚カトリック教会は作品群の中でも特異な表現として突出していると思います。
フォルマが感じたこと
生物のような外観
地元では、「くじら」「なめくじ」との愛称で親しまれているというこの形。どうしてこのような建築ができあがったのか、非常に興味を惹かれました。
というのも村野藤吾氏の同時期に竣工したものとしては、千代田生命本社ビル、西宮商工会議所、出光興産京都支店、泉州銀行府中支店等があります。設計者が同じとは思えないほどです。しかし考えてみると、商業建築を主な活躍の場としていた同氏です。その表現方法は、商業建築であるがゆえの経済的な要求が存在した上で設計されたところがあると思います。一方教会は、純粋に宗教建築、祈りやその延長の営みを行う場です。求められている要求の違いがこれだけのふり幅を持って表現方法の違いとなり、現実となった例ではないかと感じました。
外壁と地面との繋がり
近くに立つと、地面から生えてきた、若しくは地面がせり出して教会となったかのようです。曲線でゆるやかに跳ね出された庇が、やさしく人を包み込み、壁に沿って行くと大きな木戸の入口がむかえてくれます。
教会の外壁
思いの他建具高さは低く、荘厳な造りではなく誰でもが入りやすそうな、それでいて期待感でドキドキするような、身体感覚を大切にして設計されていると感じました。
内部空間の光の美しさ
三角形の底辺側から入り、祭壇方向へ窄まっているため、現実以上のパースペクティブ効果があり、自ずと視線と意識は祭壇中央部に吸い寄せられます。
祭壇上部は塔状からの光が落ちてきます。むかって左のハイサイドライトからの反射光を内部のうねる天井が光を内側へ反射させています。右は、縦スリットからの間接光(直射光)を祭壇方向に導く構成です。
「写真」は自然光だけで正面から撮影したものです。自然光でこれだけの効果が得られるように設計されています。照明が灯ると、うねる天井は更に点光源をいびつに反射させて、光を有機的なものに変換させているようです。
天井のうねりは図面上だけでは現れず、現場でもモックアップや村野氏の現場指示で完成したということです。( 施工も信者の方の経営する建築会社で相当な献身的な努力が有ったようです。)いかにこの造形に重きが置かれていたかを感じずにはいられませんでした。
階段と手摺のデザイン
階段手摺好きの私としては裏動線にある階段にも注目です。シンプルな鋼材ですが緩やかな曲線を使った造形。波間に漂う水紋のような、たおやかで存在感のある手摺でした。
見学中に参加者からいくつか質問がありました。こちらの勉強不足で分からないこともありましたが、図面集を見る中で考えた私なりの見解です。
1.内部の壁の素材が違うのは何故?
片方は外壁と同じように作られているのに反対側はレンガ積みとなっています。躯体の柱と柱の間に積まれています。地下室の二重壁のような構造となっていますがよくよく考えるとこちらは電車の線路に面する側なので電車の走行音に対する配慮でしょうか。温熱環境に対する配慮なのかもしれません。
2.天井の自由な曲線の図面はどうやって書くの?
これは図集にありましたが、断面図をたくさん描いて基準となる位置やポイントの数値を明確にしてあります。追記として「現場原寸や模型の寸法に依る」とし、更に施工中に足しげく現場を訪れ指示をしたとの記載がありました。現在は3D CAD等で出来る部分は有りますが、建築家の思いを実現するには職方とのコミュニケーションが大切という事ですね。
3.信者席の椅子(村野藤吾設計)、背もたれの形状のなぞ?
笠木の上見付け約30mm、下見付け約15mm、背貫約15mmのものが二本取り付いています。笠木(背もたれの最上部)の形状、背もたれ側は垂直なのに後ろ側は斜め(テーパー)になっていて背束(背柱)からはこぼれる形になっています。どんな理由があるのか?
現地でもいろいろ意見がでましたが、長椅子の場合は別として、個別椅子の場合は座ったり立ったりする時に笠木をよりどころにするのではないでしょうか。(手摺代わりに使う。) 教会椅子を調べていると、確かに笠木が上面に手摺状に取り付けられている例もあります。
これらの配慮をしてデザインを進めたと考えられないかと思いました。同氏のイメージと使い手に配慮されたデザインから導かれた形。人に優しい造り方の現われですね。
村野藤吾の設計による教会の椅子 椅子の背もたれ
最後に
ちょうど帰ろうとする際にいらした信者の方から、「人が入り使われることで、この建物はもっとすばらしい空間になります。今度こられるときは、この建物を使っている時にきて下さい。」と声をかけていただきました。ろうそくが灯り、音楽が響き、人の動きがあり、時には笑顔があふれるシーンを想像します。建築空間は、使われている状態での「人と空間の相互作用」でより豊かになるということです。
長年使ってこられた信者の方々でも、季節や時間によって様々な表情を見せる建物に今も驚くことがあるそうです。50年以上経っても愛され続けている建物と人との関係性について、直接お話を伺えた貴重な体験でした。
見学を終えて
村野氏は建物について語らない姿勢を貫いています。しかし、永い年月を経ても村野氏の設計思想が信者の方々それぞれに、感じ方は違えど伝わっているように感じた建築見学でした。
今回の建築見学は6名でした。好きなことを体験したり、時間を共有できるのはいつもとてもうれしく思います。参加いただいた皆さまありがとうございました。興味のある方は次回の企画にぜひお気軽にご参加下さい。
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カトリック宝塚教会のホームページ
http://www.takarazuka.org/