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-2016.8.21-
舞鶴 赤れんが博物館
旧舞鶴海軍が明治36年(1903)100年前に建設した魚雷の倉庫です。
今は博物館、売店、公共のフリースペースやカフェ、各種イベントで使用できる多目的スペースを備えた建物として活用されています。
以前にも来たことが有ったのですが主に外観と建物間を散策したぐらいで景観を楽しむくらいの記憶しかありませんでした、着いたのがちょうどお昼だったせいか、フリースペースや公園のベンチに座り寛いでおられる方結構いらっしゃいました。
自然に良い感じで活用されていて驚きでした。
今回はれんが倉庫の窓に注目しました。
アーチ形の窓が規則正しく配置されています。
一階は大きく防犯のための鉄格子があり、2階部分は小さくなっています。
開閉方式は下段の窓が上にせり上がる方式です。
枠、窓本体は木製です。
木製の窓は劣化が心配なので窓の見込み(壁の厚さ)を大きく取る事で雨による劣化の軽減に一役買っています。
軒部分の逆ヒナ段の形状も水切りを良くするための工夫ではないかと思います。
100年前の設計者も素材と耐久性、劣化に対する備えをしっかり考えていた事を実感しました。
そして、窓の形状がアーチとなっているのは理由が有ります。
煉瓦造の壁に長方形の開口を開けると垂れ壁部分がずり落ちてしまうのでずり落ちない様にアーチ
にして応力を分散しているのです。
下部は「窓台」といって棒状の石で窓廻りのれんがを支える役目が有ります。
力学的な理由からアーチ窓となっているのです。(構造から決まった窓の形状)
(もう一つの方法は、窓上部に「まぐさ」と呼ばれる棒状の石を置く事で長方形の窓を作る事も出来ます。)
窓の両端にはこのようにロープが仕込んであり、おそらく先端にはおもりがぶら下がっていると推察します。
窓をせり上げると滑車を通じておもりが下がり、ロープが巻きとられるように伸び縮みします。
上げ下げする時の重さを軽減する為と左右の動きの差を平均化する為の仕組みです。
ロープが切れた時にメンテナンスをすると思われるプレートは枠の中程から下部の間に設けられていると思われます。
鍵は懐かしき、差込み栓錠です。
栓の先端が傘型になっているのが珍しいですね。(ねじ式では有りませんでした)
引手の部分が海軍にちなんだのかイカリのように見えなくもない(笑)
シンプルなつくりなので壊れる事も少なかったのでしょう。
愛着が湧くようなかわいい引手です。
窓一つとっても、100年前は使用できる素材が限られていた為、非常によく考えられたディティールとなっています。
劣化に対する耐久性、メンテナンス性、日常の使用時の工夫等々・・・
これらの基本となる考えは現在、木製建具を設計する場合でも非常に役に立ちます。
当時の設計者はこの建物が100年以上利用される事を想定していたかどうかはわかりませんが、実際、風雨や災害にも耐え現存している事は間違いないわけで、各部のディティールは生き証人的な意味合いも有ります。(継続的なメンテナンスも当然必要ですが)
この考えで行けば間違いないという本質を学ぶことが出来ます。
古い建築を見る時には各部分を観察して自分の設計の考えと比べながら見る事が楽しみの一つでもあります。