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-2025.4.28-
氣を読む建築 第二回【力をぶつけずに受け入れる共創のプロセス】
合氣道の思想の一つ。
【宇宙の真象を眺め、己に取り入れよ】
これは、合氣道開祖による魂の学びとしての言葉です。
「合氣道は魂の学びである、魂魄(こんぱく)阿吽の呼吸である。また、合氣道は宇宙の営みの御姿、御振舞いの万有万神の条理を明示する大律法である。・・・(中略)すべては一元の本より発しているが、一元は精神の本と物体の本を生み出している。それは複雑微妙なる法則をつくっている。それが宇宙の御姿、御振舞いの営みと宇宙万有に生命と体を与えている。それが生成化育の大道を歩んでいるのである。そして宇宙は一家のごとく、また、過去、現在、未来は生命呼吸として人生の化育を教えている。宇宙万有の世の進化は一元の本より発し、我らをして楽天に統一に和合へと進展させている。
我々は正勝、吾勝、勝速日の精神をもって、天の運化を腹中に胎蔵して宇宙と同化し、そして宇宙の内外の魂を育成して、かつ五体のひびきをもってすべて清浄に融通無碍の緒結びをして宇宙世界の一元の本と人の一元の本を知り、同根の意義を究めて、宇宙の中心と正勝、吾勝、勝速日を誤らず、武産の武の阿吽の呼吸の理念力で魂の技を生み出す道を歩まなくてはならない。・・・(後略)」
概説すると、以下のような内容になります。
合氣道は魂を育てる学び
合氣道とは、単に身体の動きを学ぶものではありません。
魂そのものを磨き、成長させる学びです。
宇宙の法則と一体になる道
宇宙には目には見えないけれども、すべてを動かし、生かしている根本的な法則(大律法)が存在します。
合氣道は、その宇宙の営みと一体となる生き方・振る舞いを体現する道です。
「一元の本」から万物は生まれた
この世界に存在するすべて(精神も、肉体も)は、ひとつの源(=一元の本)から生まれました。
それは非常に繊細で、複雑な法則によって成り立っています。
過去・現在・未来は一つの呼吸である
時間もまた分断されているのではなく、大きな命の流れ=生命の呼吸としてつながっています。
だからこそ、私たちも「いま」を大切にし、宇宙と調和して生きる必要があるのです。
「正勝・吾勝・勝速日」の精神で生きる
- 正勝(まさかつ):正しい心で勝つ
- 吾勝(あがかつ):自分自身に勝つ
- 勝速日(かつはやひ):素早く、迷わずに勝つ
この三つの精神をもって、自分の内に宇宙の力を宿し、宇宙と一体となって生きるべきだと教えています。
阿吽の呼吸で宇宙とつながる
呼吸を通して、外の世界(宇宙)と自分の内側(魂)を響き合わせます。
自由自在(融通無碍)にすべてと結びつきながら生きることが、「魂の技」を生み出す道であると説かれています。
「受けと取り」──魂の共鳴をつくる道

合氣道は、相対稽古を主とし、勝ち負けを競うものではありません。
「受け」は攻撃を仕掛ける側、「取り」は攻撃を受け、防御しつつ技をかける側と定義されます。
相対稽古では、それぞれに役割があり、互いを活かし合うことが求められます。
特に「取り」は、受けの意図やエネルギーを全身で受けとめ、共に氣を響かせながら調和を図る能動的な存在です。
取りは受けを敵とみなすのではなく、その魂と響き合いながら、自らも生成化育(生命を育み進化させる道)に関わる存在となります。
つまり、「取り」の役割とは、宇宙の大いなる流れに身を委ね、調和を生み出す創造的な行為だと言えます。
この「取り」の在り方は、建築設計における「傾聴」と深く重なります。
設計とは、単に建築主の要望を聞き取るだけの作業ではありません。
クライアントの言葉の背後にある思いや、まだ言葉になっていない願いにまで耳を澄まし、
その人の魂と、そこに流れる見えざる「氣」を感じ取る営みです。
それは、単なる受動ではなく、相手の存在を丸ごと肯定し、新たな命を共に生み出していく創造的な共鳴であります。
植芝盛平開祖が説かれたように、宇宙万有はすべて一元の本より発し、互いに調和しながら生成化育しています。
この大きな流れに沿うためには、自己を押し通すのではなく、目の前の存在に心を開き、共に呼吸する(阿吽の呼吸)ことが求められます。
設計における傾聴とは、クライアントとの間に魂の呼吸を生み出すことに他なりません。
真の「取り」とは、受けを打ち負かすことではありません。
真の傾聴とは、相手を操作することでもありません。
どちらも、相手と一体となりながら、よりよい未来へと導き合う道であります。
「取り」の在り方に学びながら、設計者(聴くときは否設計者)は傾聴を深めてまいります。
その先に生まれるであろう建築は、単なる物体ではなく、
宇宙の営みに響き合う「家」となると考えています。
クライアントの本質的なニーズ=「魂とそこに流れる見えざる氣」を感じ取る対話
ご自身で家を考える際に、家族同士でこのような対話を行うと、「魂とそこに流れる見えざる氣」と事象が現れてくるのでこのような心持で行う事をおすすめいたします。
☐相手の全体像(氣の流れ)を感じ取る
合氣道で相手の氣を読むように、言葉だけではなく、表情、視線、語調、呼吸なども読み取ります。
☐沈黙を許容し、間を大切にする
クライアントが答えを探している沈黙を「埋めよう」とせず、答えを急がず静かに共に待つことで、深い部分が自然に現れてきます。
☐なぜそれを望むのか?を柔らかく問いかける
たとえば「リビングを広くしたい」という要望に対して、
- 「どんな時間をそのリビングで過ごしたいと考えていますか?」
- 「リビングの広さが、どんな安心感や楽しさにつながると思われますか?」
問いかけを通して、要望の背後にある感情や体験イメージを意識してもらいます。
☐相手の未来像を一緒に「共に見る」
「ここでどんな一日を過ごしているでしょうか?」「10年後、どんなふうに暮らしているでしょう?」
自身がまだ明確に言葉にできていない未来像を、対話の中で共に描き出すようにします。
そうすることでニーズが単なる「機能」から「魂の願い」へと導かれます。
☐自己のフィルターを外す
ぼくであれば設計者自身の好みや常識を一度脇に置き、無垢な心で相手に向き合います。
家族であれば自身の固定観念や想いは一旦おいておき相手の想いに寄り添い一旦受け入れるそして自分の想いと比較しない事が重要です。
「自分を空にして、ただそこにいる」という態度で、魂の対話が出来るよう努めます。
補足:このプロセスは合氣道の「取り」と同じです
- 技をかけることを目的とせず、
- 相手と呼吸を合わせ、氣を一つにし、
- 無理なく自然に調和を生み出していく。
設計における傾聴もまた、まったく同じ「道」です。
このような対話が行われると、共創の基礎となる「魂とそこに流れる見えざる氣」と事象が現れ魂の求めるところの共有が可能となり、
宇宙の真象をよく眺め、己に取り入れ、クライアントの魂が求める家の軸をつくることができるのです。
是非、この方法で対話を深めていただきたいと思います。
次回予告
第三回は柔よく剛を制す──かっちりと、ふわっとの間 についてです
建築自身とそれに関わるものの間には様々な状態が現れてきます。関連、相対、連携、対立、影響、波及、様々な関係性においてのひとつの型にはまる事の不自由さと型から離れた時の自由さの間には何があるのかを考えてみたいと思います。
一級建築士事務所FORMA
中西義照