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-2023.10.9-
時を刻む
先週、東北へ行ってきました。仙台、岩手、青森と移動したのですが、一番の目的はグランドセイコースタジオ雫石の見学です。
設計は建築家の隈研吾さん。実は、こちらの見学は企業見学ということで、ご一緒させていただいた方たちは、人材育成のコンサルタントさんや、企業経営者の方々で、その中に私たちは建築見学ということで参加させていただきました。
京都の建築設計事務所 FORMAフォルマ 住まい方アドバイザー 中西千恵です。
設計者は、大きな建築も小さな家も、そこで活動する人、家であれば暮らす人の行動や意識の変化を考えていると思っています。テルさんは、それを個人のお客さまの住宅でいつも考えているわけですが、今回スタジオ内を見学させていただきながら、こんなことを感じていました。
スタジオ雫石は、一般道に面することのない緑に囲まれた環境の中にあり、ガラス張りのスタジオは静かにたたずんでいました。建物のすぐそばまで日本カモシカがやってくるのは、年に一度や二度ではなく、雪が降ると野うさぎの足跡を見ることができるそうです。建物があり人がその中で活動していても、野生動物が警戒することのない環境を保っているということでしょうね。
エントランスを入ると岩手県産の木材がふんだんに使われているという展示スペースで、グランドセイコーの歴史や背景に思いをめぐらし、見えないところまでこだわり尽くしたものづくりの中身を知ることになりました。
続いて、自然とつながる整った長い廊下では、ガラス越しにクリーンルーム内の精巧なものづくりを目の前でみることができます。ピンセットで3mmの折り鶴を折ることができるほどの現代の名工の技に、感動のため息がもれます。
階段を半階上がり、一つの時計ができるものづくりの全体を見渡します。ここで一つ一つ作られたものが世界中の愛好者へ届けられているということです。
さらに半階、2階へ上がると大開口から雫石の景色、遠くに岩手山へと視線が抜けていきます。(この日は雲がかかって岩手山の全景は見ることができませんでした)
ソファに腰かけ、静かに『THE NATURE OF TIME』、時の本質を静かに感じる時間。これまで刻んできた時を思い、これから刻む時を思う、そんな時間と場所でしょうか。
グランドセイコースタジオ雫石は、岩手県雫石町 盛岡セイコー工業 雫石高級時計工房内にあります。盛岡セイコー工業の加藤社長自ら案内してくださいました。時計というものづくりだけでない、人や自然、社会への取り組みにもとても惹かれます。一緒に写真に入ってくださった加藤社長の座右の銘は『我以外皆我師』、とても素敵な方でした。
案内してくださった広報担当の女性は、会社のいいところはどこですか?の質問に、人間関係がいいとおっしゃいます。そして、スタジオについては、仕事として決まっているわけでもなければ、上司に言われるわけでもなく、きれいなスタジオをきれいな状態で見ていただきたい、使ってもらいたいと思うので、自主的にスタジオ周囲の落ち葉の掃除をされたりするそうです。
私は来訪者として意識の変化を感じながら見学させていただいたわけですが、スタジオは実際にものづくりをされている社員の方々、他の社内の方が活動されている場所です。日々、ここを使う方がきれいな建物だと感じることで、きれいな状態を維持したいと意識し行動され、その「時の積み重ね」が愛着になり、建物も時計というものづくりと同じように長く引き継がれていくのだろうと想像しました。
このお話をお聞きしながら、先月、兄の家のKさんちへ半年点検に伺った時のことを思いました。こちらは、兄の家と弟の家の2軒が庭を共有しながら隣り合って暮らす家ですが、兄の家は、当初建築家へ依頼する必要性を感じているわけではなかったと思います。ですが、先日の点検では、細かなところまで気を配り、とても丁寧に暮らしていらっしゃることをヒシヒシと感じました。
帰り際に、Kさんは「兄の家が大好きなんです」そうおっしゃってくださいました。そこに暮らす人に愛されることで、その想いは住まいに刻まれていきます。なんて幸せな住まいなのでしょう。そしてそれはここを訪れる人も、同じように心地がいいと感じるのでしょうね。
時計も家もものづくりです。そこには考える人がいて、つくる人がいて、使ったり暮らす人がいます。それぞれのカタチで関わりながら、その時を刻んでいます。『THE NATURE OF TIME』、仕事や人生を通して、時を刻むことに思いを向ける見学になりました。
一般見学も可能のようです。とても素敵なものづくり、スタジオ、そして人、自然がありました。